竹下文子さんと田中清代さんの絵本「ねえだっこして」 お姉さん猫の本当の気持ちに心が揺れる|好書好日
竹下文子(たけした・ふみこ)童話作家 1957年、福岡県生まれ。東京学芸大学で幼児教育を学ぶかたわら執筆活動を始める。おもな作品に「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)、「おてつだいねこ」シリーズ(金の星社)、絵本に『なまえのないねこ』(小峰書店)、『にげろ!どろねこちゃん』(教育画劇)他多数。 田中清代(たなか・きよ)絵本作家、銅版画家 1972年、神奈川県生まれ。多摩美術大学絵画科にて油絵と版画を学ぶ。97年「みずたまのチワワ」(井上荒野/文)の出版以来、絵本を中心に制作。『くろいの』(偕成社)で、第25回日本絵本賞大賞、第68回小学館児童出版文化賞を受賞。主な絵本作品に『おきにいり』(ひさかたチャイルド)、『トマトさん』(福音館書店)など。 猫の詩画集から生まれた物語 竹下:この物語は、 猫の詩画集を作りたくて書いた詩のひとつでした。この詩を書く3年ぐらい前に、夫(絵本作家の鈴木まもるさん)と二人で歩いていたら、目もあいていない赤ちゃん猫が3匹、捨てられていたんですよ。あまりにほうっておけなくて、大家さんには内緒で、哺乳瓶から一生懸命育てたんです。 そうして猫と一緒に暮らすようになってから、猫を題材にした作品を書きたいと思うようになり、15編の詩を書きました。その中のひとつがストーリー性があって絵本にぴったりだったので、絵本化することになったんです。でも絵を描いていただくのにふさわしい画家さんがなかなか見つからなくて。詩ができてから絵本になるまで、ずいぶん時間がかかってしまいました。 ――絵本には、愛情たっぷりに赤ん坊のお世話をするお母さんと、まるでミルクの匂いまで感じられそうな家の様子、素っ気なく見えて甘えん坊な猫が生き生きと描かれている。猫は「いいよ かしてあげる だいすきな おかあさんの おひざ」と新しく来た赤ちゃんに対して、寛大なようにふるまっているが、後半からは「おかあさん おかあさん ときどき わたしも だっこして」と甘えたい気持ちがあふれてくる。その様子を、第二子が生まれた上の子の様子に重ねて、涙する人も少なくない。 竹下:作品としてはあくまで猫の話として書いたものですが、私自身が長女なので、弟が生まれたときの記憶なども少し混ざっているかもしれませんね。以前読んだエッセイで、猫は飼われている家に新しい家族がやってくると、稀に家を出ていってしまうことがあると書かれていて、それがずっと印象に残っていたんです。自分の子が生まれたときは、うちにいた3匹の猫に育ててもらったようなものでしたから、逆に子どもが生まれた後だったら、このお話は書けなかったなと思います。 『ねえだっこして』(金の星社)より 竹下:昔はお父さんが子育てをしないのが当たり前だったので、こういう終わり方ができたのはよかったなと思います。文章だけでは読み終わりがさみしかったけれど、絵が加わることで、ハッピーな終わり方になりました。この詩を絵本にしてよかった、と本当に思いましたね。 当時、田中清代さんがスケッチさせてもらったという赤ちゃんとお母さん