コラム:円安は「後退する日本」の象徴なのか、浮上する不都合な真実=佐々木融氏
また、経済産業省の統計によると、日本企業の海外現地法人の純利益は年間10兆円程度でそのうち4兆円前後を内部留保として積み上げている。結果的に日本企業の海外現地法人の内部留保残高は40兆円以上に上っている。 2つ目は「日本企業が円安メリットを以前ほど享受できなくなっている」という点だ。製造業による対外直接投資増加も一因となっていると考えられるが、近年は円安になっても輸出数量が伸びず、貿易黒字が増えなくなってきている。また、輸入企業は円安で上昇しているはずの輸入価格を国内価格に転嫁できず、物価も上がらないし、企業収益は悪化する。 <海外勢の失望売りと日本人の現金選好> 4つ目は「日本の家計の現金選好」だ。日本の家計は円と交換することができる資産に魅力を感じていないのか、長いデフレの中を生きる上での知恵なのか、金融資産に占める預貯金の保有比率が高い。 つまり、いくら対外的な購買力が低下しても、日本の家計は円という通貨が最も魅力的な国内資産だと感じて保有している。だから、円という通貨は日本国内で価値を維持している。つまり日本の物価は上がりにくい。 <上がらない日本人の年収> この結果、ドル建てでみた平均年収は2000年当時の日本はOECD加盟国の中で3番目に高い国だったが、今や順位は20位まで低下しており、韓国とほぼ同水準となっている。ちなみに20年前の日本の年収は韓国の2.7倍だった。 他国はインフレ率も高いし、日本はインフレ率が横ばいだから名目賃金が上昇していなくても仕方ないだろうと開き直りたくなるかもしれない。しかし、日本の実質平均賃金は過去20年間でみても、30年間でみてもほとんど変化していない。 一方、米国の実質平均年収は過去20年間で25%、過去30年間で48%も上昇している。その他主要国も過去20年間の実質賃金は15%─45%程度伸びており、日本とは状況が大きく異なっている。 日本人の給料は上がらない一方、海外の人の給料は上がり、現地のモノやサービスの価格は上昇する。本来それを為替レートが調整するのだが、その機能が働かなくなっている。このままの状況が続くと、日本人にとって海外のモノやサービスはさらに割高になっていくだろう。そして、割高になる海外旅行に行ける日本人が限られる一方、外国人にとっては日本は一段と割安になる。 過去1年半程度のコロナ禍でも他の主要国の物価は上昇している一方、日本の物価は若干下落している。それにもかかわらず円安になっているので、国境を超えた往来が通常に戻ったら、ますます購買力をパワーアップさせた外国人観光客が日本に押し寄せてくれることになるだろう。 それ自体は日本経済にとって良いことだが、いずれ良いモノ・サービスの価格は外国人向け価格で高く設定されるようになり、日本人には手の届かない水準になってしまうかもしれない。