コラム:デルタ株拡大で「偽りの夜明け」か、ドル下落リスクも=上野泰也氏
欧州中央銀行(ECB)は7月8日、戦略見直しを発表。物価目標をそれまでの「2%弱」から「中期的に2%」に変更した上で、一時的な上振れを許容した。同月22日の理事会では、物価目標の変更を反映する形で、フォワードガイダンス書き換えを決定した。 これらは、過去の失敗を教訓にしつつ時期尚早の利上げを行いにくくするハト派的な決定であり、ユーロ売り材料である。ただし、それはもっぱら物価目標達成という観点からのものであり、デルタ株感染が欧州大陸で急速に拡大していることは、今後のリスク要因という扱いである。 一方、ロシア中央銀行は7月23日、政策金利を一気に1%ポイント引き上げて6.5%にした。経済活動の再開で需要が急増する一方、国内の供給能力に限界がある上に、通貨ルーブルが軟調で輸入インフレ圧力がある中での決定である。ロシアでは、自国製ワクチンへの信頼感が低いこともあって接種率が低く、新型コロナ感染拡大が急速に進んでいるのだが、同国の中銀はインフレ率の抑制にのみ焦点をあてている感が強い。 この間、南アフリカとインドネシアの中央銀行は、政策金利を3.5%に据え置いた。両国とも新型コロナ感染拡大に苦しんでおり、低金利維持で景気を下支えする。南アはズマ前大統領収監に端を発した暴動発生が、追加的な景気下振れリスクになっている。 そうした中で、当面の動向が最も注目される中央銀行が、オーストラリア準備銀行(RBA)である。同行は7月の理事会で、9月からの量的緩和(債券買い入れ)縮小、いわゆる「テーパリング」開始を決定した。ただし、議事要旨には買い入れ額の増減は柔軟に行う必要ありとの見方で一致したと記されていた。 その後、同国では広範にロックダウン(都市封鎖)が実施され、景気腰折れ観測が急浮上している。8月3日の理事会でテーパリングを先送りするとの観測、あるいは逆に買い入れを増額する必要ありという見方が出ている。 RBAの動きは、年末までにテーパリングを巡る議論を決着させるとみられる米国の米連邦準備理事会(FRB)の動きや、それに関連するマーケットの見方に、微妙に影響を及ぼすだろう。 デルタ株が猛威を振るえば振るうほど、FRBのテーパリングは先送りされやすく、スライドして米国の利上げ開始時期も遠ざかる。頭打ちになっているワクチン接種率なども含め、新型コロナウイルスを巡る状況を総合的に考えると、米国の利上げ開始はやはり、2024年以降にずれ込むのではないか。早期利上げ実施の織り込みをはがし切れていない米債券市場では、中期ゾーンの金利に低下余地がまだある。 日米金利差に着目して動く場面もあるドル/円相場では、ドルの上値は今後も重く、年内には107円を下回って105円を視野に入れる場面もあるだろうと、筆者はみている。 *本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 *上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。 *このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。