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 だからこその面白さ、楽しさを、本書は様々に伝えてくる。「生身の人間がぶつかり合い、叫び合う。演劇には良くも悪くもアナログ的なライブのカオスがあって、人は今もそれを求めているのではないか」
 人間には「人間の速度」があるのだと著者はいう。頭でなく身体が理解する速さで、演劇はそれを実感させる。スマホは「等身大の生身の人間」を希薄化すると危惧しつつ、「僕らはスマホを手放せない。その前提で、より良い人生をどう生きていくか」。
 演劇は人を豊かにする。芸術は「あなたの人生はそれでいいのか?」と挑発し、芸能は「あなたの人生はそれでいいのですよ」と肯定するものだとは、著者の見解である。「とても緊張感のある両者の綱引きの真ん中に立ちたい」。そう念じて試行錯誤してきた。22歳で劇団「第三舞台」を旗揚げし、多くの公演を重ね、日本劇作家協会会長も務めた。それでも道半ばということか、本書を「中間報告」としている。
 「炎上」ばやりのご時世だが、演劇は「幸いマイナーなジャンルなので、自由なんですよ、本当に」。自由であること、それは演劇を続ける大きな理由であり推進力だという。
 この国を息苦しくさせる「ブラック校則」や「世間」を論じて警鐘を鳴らしてきた。「どんどん不寛容な世の中になってきて、みんな声を上げることに臆病になっている。自分に言えることは言っていきたい」
 力説する一つに演劇教育の必要性がある。「その役になる、自分ではない人の物の見方を経験する、それは『共感する能力』を育てることにもなる」。本書副題のゆえんでもあろう。=朝日新聞2021年7月3日掲載

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