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女性選手は47%に 二つの東京五輪、日本社会はどう変わったか : vimarsana.com
女性選手は47%に 二つの東京五輪、日本社会はどう変わったか
BG、職場の花、女子大生亡国論――。60年代、こんな言葉が世間をにぎわせていた。
時代は高度経済成長期。61年には配偶者控除制度も創設され「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という意識が広まった。そんな中でも働く未婚女性は増え、ビジネス・ガールの頭文字を取ってBGと呼ばれた。ただし、仕事は単純作業やお茶くみのような補助的なものがほとんど。求められたのは職場の花としての役割だったようだ。入社数年で結婚し、会社を辞めて主婦となるケースが多く、彼女らの就職は腰掛けとやゆされた。また、大学教員の中には女性の大学進学を「嫁入りのための教養」と批判する人もおり、女子大生亡国論として話題になった。
女性たちが男性にとって都合のよい「女らしさ」を求められていた時代でもあった。「針や糸などはいつも用意して、ラッシュでオーバーのボタンがとれたとか言って困っている時は、女らしくつけておあげなさい」「すぐお尻にさわる、顔をみるといやらしいことを言うなどとフンガイしているBG諸君もいますが、それも何かあなたの方につけこますすきがあるからです」。女性誌の63年3月号に掲載された男性の文芸評論家の記事からは、時代の雰囲気が浮かぶ。
64年五輪を前に、ちょっとした変化もあった。「BGは売春婦の略語として使われている」という説を受け、NHKの放送用語委員会は放送の際に使わないと宣言。ある雑誌がBGに代わる名称を募集したところ「OL(オフィス・レディー)」が1位となった。
そんな時代、女性アスリートも今より少なかった。女性五輪選手は、今回は日本選手団583人中277人(47・5%)で約半数を占める。一方で64年五輪では355人のうち61人(17・2%)に過ぎなかった。
結婚と同時に引退する選手も多かった。チームの監督が結婚相手に気を配ることもあった。64年五輪で金メダルを獲得したバレーボール女子日本代表「東洋の魔女」の選手らにも、大松博文監督が引退後の結婚相手の世話に奔走した。31歳で引退した主将の河西昌枝さんは、佐藤栄作首相(当時)が取り持つ形で、自衛官の男性と首相の私邸でお見合いし、話題になった。
1964年の東京五輪で「東洋の魔女」が手にした金メダル(左)と、72年のミュンヘン五輪で日本代表が得た銀メダル。千葉勝美さんが大事に保管してきた=2021年7月22日午前11時22分、竹内麻子撮影
千葉(旧姓松村)勝美さん(77)も「東洋の魔女」の一員だった。64年五輪では控え選手となり、河西さんが歓声の中でメダルを掲げた姿が目に焼き付いた。「次は自分が」と誓ったものの、68年のメキシコ五輪には出場できなかった。70年の世界選手権に出場した後、引退を考えた。千葉さんは当時26歳。女性は25歳を過ぎると結婚には遅いとの風潮があり、母親も結婚を望んでいた。
ある日、実家に戻っていた千葉さんに、チームの監督らが会いに来た。「2年後のミュンヘン五輪までやってほしい」。千葉さんは「やめようと思っていたのに、体がウズウズして」と笑う。監督が結婚相手を探すと約束して親を説得したことは、後で知った。
千葉さんは日本代表の主将として臨んだ72年のミュンヘン五輪で銀メダルを得た後、剣道日本一の警察官と結婚した。監督の依頼で奈良市長が仲立ちした相手だった。結婚後は競技を離れ、子育てしながらママさんバレーの指導に取り組んだ。千葉さんは「結婚後も選手を続けるというのはどういうものか、当時は考えられなかった」と話す。
女性に対する認識は今、変化したのか。ジェンダー問題を研究してきた東京都立大名誉教授の江原由美子さん(68)は「大きく変わったのは性別役割分業を否定する人が増えたこと」と語る。2019年の内閣府の世論調査では、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」との考えに賛成する人は35・0%、反対する人は59・8%。若い世代に限れば反対が6割超に上った。
江原さんは70年代、世界に広がった女性解放運動・ウーマンリブに参加した。結婚したら主婦になり、子育てを終えたらパートに出る――。「何一つ自分で決められず、男性にとって都合のよい存在であることを要求されるのは自分の生き方ではない」と思った。とはいえ、通っていた東京大で優生保護法(当時)の改定に反対する運動を呼びかけても、参加者はたった数人。「リブ運動はまじめに受け取るに値しないと思われていた」と振り返る。
今では「#MeToo運動」やフラワーデモなど、性暴力への反対運動が展開されるようになった。組織委会長だった森喜朗元首相が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言したことにも怒りの声が噴出し、森氏の会長辞任につながった。
森氏の発言の裏には「女が言うことはくだらないから聞いてもしょうがない」という思いがあると、江原さんは考えている。その上で「聞く気がないから長く感じるということに、多くの女性が気づいた。女性は形だけ会議に参加していればよいという考えに腹を立てたからこそ、大きな反応になった」と指摘する。
ただし、女性を取り巻く現状はいまだに厳しい。働く女性は年々増え、総務省の調査では15~64歳の女性の就業率は7割を超えた。しかし20年の厚生労働省の調査では、正規労働者でみても、女性は出産や育児の影響で男性の7割しか稼げていない。さらに女性は非正規雇用が多い。日本は正規雇用と非正規雇用の賃金格差が大きく、20年の男性雇用者(15~64歳)のうち非正規で働くのは全体の22・1%だったが、女性の場合は54・4%に上る。
江原さんは「ワーク・ライフ・バランスを考慮した評価基準を考え、女性にフェアな雇用のあり方を作らなければ、日本の未来はない」と話す。【竹内麻子】
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