7月1日に富士山が2年ぶりに山開きした。山梨県は、富士山での新型コロナウイルス感染を防ぐべく、山梨側の吉田ルートでは体調を確認するチェックシートや検温態勢を整備するなどしているが、実際に6合目まで登ってみると、実質的な点検を受けずに登山することも可能だった。入山者の良識に頼らざるを得ない対策に改善の余地を感じた。【山本悟】
5日、車で有料道路「富士スバルライン」の入り口ゲートを抜けると、3・4キロ先の一合目下駐車場に入るよう誘導された。3人の係員に止められ、車内から事前に用意したチェックシートを見せた。シートは県のホームページから印刷、「37・5度以上または平熱+1度以上の発熱がある」「倦怠(けんたい)感や息苦しさがある」など計9項目の該当箇所を自分でチェックする。出発前の自宅での検温では36・6度で、チェックを入れたのは、体調不良や健康不安など「該当する項目はない」だけだった。検温器を手にした係員はシートを見ると検温はせず、そのまま通過できた。県職員の許可を得て様子を見ていると、後続車の外国人ドライバーはシートを持っておらず、手首の裏側で検温されていた。
富士山の吉田ルートと点検ポイント
点検受けずに通過も
5合目で車を降りると、登山道入り口手前の「富士山五合目総合管理センター」の玄関前で、シートの有無を聞かれた。「ザックの中にある」と答えると、掲示を求められることもなく通過できた。
周辺では外国人が大勢集まり、通訳が説明に追われていた。横田(東京都)、岩国(山口県)、沖縄などの各地の米軍基地から来た米軍関係者や家族のグループだという。売店の店員らによると、開山直後は外国人客が7割を占め、夏休みに入ると日本人客が多くなる。日帰りで山頂を目指した甲府市の40代男性会社員は「変異株の問題で、全国各地から来る登山者が(感染していないか)心配だ。(シートがあれば)検温しないので点検は甘い」と話す。
安全指導センター(左側)の前を通り、頂上を目指す登山者たち。この先に吉田口登山道との合流点がある=6合目で2021年7月5日午前10時26分、山本悟撮影
6合目では安全指導センターの手前で、係員3人にザック内にシート持参と答えると「1合目でちゃんと検査しているから」と通された。結局、ここまでの3カ所の点検場所で検温は全く受けず、シートを見せたのは一合目下の1回だけだった。同センターから約50メートル先で合流する吉田口登山道ではノーチェックだったと話す登山者もいた。近県から来た会社員、田村政利さん(48)はチェックシートを持参したが点検員すらおらず「1度ぐらいチェックした方がいいのでは」と困惑する。山小屋関係者によると、6合目までの吉田口登山道の利用者は、スバルライン5合目からの登山者に比べれば圧倒的に少ないというが、合流点で様子をうかがうといないわけではない。
スバルライン5合目までの下山途中に出会った茨城県の40代女性は「2年ぶりの待ちに待った富士山。少々の熱があっても薬を飲み、平熱を装って登山したくなるのは人情ではないか」と話した。
全員に検温は渋滞や予算面で課題
全員の検温が無理でも、シートへの体温の記入や、シートの確認機会を増やした方がいい。標高3000メートルを超える富士山は単なる観光地ではない。登山者に体調管理を促すことが、安全な登山につながるのではないか。
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