東京の空に巨大

東京の空に巨大な「顔」が… 目を疑う光景が問いかけるもの


 午前8時。若者の街・原宿に通勤客の姿が見え始めた。風が吹くたびに向きを変える、バルーンのような「顔」を見て、道行く人が驚いた表情で空を見つめる。通勤路に突如現れた物体に、サラリーマンやマラソンランナーが一点を凝視していた。
 シュールな光景を作ったのは、荒神明香(38)、南川憲二(41)、増井宏文(40)の3氏でつくる現代アートチーム「目(め)」だ。
アートチーム「目」の南川憲二さん(左)、荒神明香さん=埼玉県北本市で2021年6月16日午後2時16分、高橋咲子撮影
 プロジェクトは題して「まさゆめ」。この日午前6時に上げられた。物体のサイズは、縦の長さが6~7階建てのビルくらい、およそ20メートルほどだ。どのようにして、何を上げているのか、気になって尋ねたが、「メカニズムをインプットした状態で見るより、初見の印象を大切にしてほしい」(南川さん)。
 「目」は2013年に活動を開始。「当たり前すぎて気づきにくいもの」という意味を込めた。地方芸術祭への参加や、千葉市美術館での個展「非常にはっきりとわからない」(19年)で知られる、注目のアートチームだ。これまで、雑木林の中に水面(みなも)を歩くことができる「池」を出現させたり、美術館の展示室そっくりに見える二つの光景を作り出したりするなど、見る人に現実の不確かさを突き付けてきた。
 目を疑うような光景を創出する、という意味ではこの「まさゆめ」プロジェクトも同様だ。今回、原宿の空に浮かんだのは実在する人物のものだという。
世界中の1000人以上から選考
 南川さんは「参加者から出た『はね返す』という言葉が決め手となった」と振り返る。「顔はそんなにじろじろ見るものじゃないし、『見ていいの?』と遠慮してしまう場合もある。世界中の人の視線をはね返す力が必要ではないかという意見があったのです」
 最終的に1人に絞ったのは荒神さん。「この人しかいない、と決めました。『哲学の顔』と呼んでいたのですが、自分たちの存在を問い直すような顔つきだと思います」と語る。今回の実施にあたり、東京の風景に当てはめるとどう見えるか、何度もシミュレーションを重ねた。
「生きるために見方を変える」
 今回のプロジェクトは、東京都などが主催する公募事業の一環。東京オリンピック・パラリンピックに合わせて昨夏に実施予定だったが、1年延期された。コロナ禍で鬱屈した気持ちが世界中に広がるなか、人々が空を見上げ、浮かんだ「顔」も人々を見返す。南川さんはその意味を改めて問い直した、と語る。
 東日本大震災の際、被災した少年が救出を待つ間、倒壊した自宅の天井のすきまから空を見上げていたという話がある。「自分の場合、がれきのなかにいるということだけを思っていたら、生きていけなかったかもしれません。物の見方を変えることが生存に欠かせないのではと思ったのです」
 もう一つ別の話がある。10年にチリの鉱山で発生した落盤事故で、2カ月以上地下に閉じ込められた33人の作業員はその間、医師や牧師などそれぞれ役割を持って過ごしたと報道された。「鉱山で働いていた人が、次の日から医師になるわけです。物の見方を変えることで小さな社会ができて、希望を見いだせたのです。生存ということをただ生々しく捉えるだけでなく、感性を使って今を見る姿勢が大切ではないでしょうか」
 私たちが直面しているコロナ禍も同様だという。「人流の災害とも言われますが、私たち自身が起こしたパンデミックをもう一度私たち自身で見る。つまり、私たちの誰かだったかもしれない『顔』が、私たちを見る。そういう作品だと思っています」

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