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時代を攪拌せよ〜異能の者たちの視座 #2:大西麻貴+百田有希 / o+h(建築ユニット)


ナラティヴが発想を膨らませる
建築家のフランク・ゲーリーはかつて、建築を建築たらしめているのは窓だと言った。
その意図は、建築が主体と客体の関係を結びつけ、また隔てる点にある。建築の内部にいる人は窓を通して外部を見ることができ、その逆も然り。つまり、対の発生こそ、建築における定義のひとつである、と。
ただ、主体の眼差しは目によって外に向けられるだけでなく、時に自己にも向く。同じ空間に誰かといて同じものを見たとしても、感じ方や連想することは各個人で変わってくるだろう。建築設計において外部環境以上にそういった感情や記憶、言い換えれば空間と人の内部、深層に特に重きを置いているのが、大西麻貴と百田有希の建築家ユニット「o+h」だ。
ふたりは発想の源として、小説のナラティヴを用いることがある。その理由について、大西は次のように語る。
「小説を読んでいる時、そこで広がっているであろう空間を想像することは少なからずあると思います。わたしの場合、その浮かび上がってくるイメージが、これまで見たことのない魅力的なものだと、実際に体験したわけではないのに記憶に残るんです。
そういったものの具現化を設計の目的にしているわけではないのですが、スタディや検討をしている際、“あの”小説から浮き出たイメージに近いんじゃないか、と結びつくことがあります。すると文脈が生まれ、発想がどんどん膨らんでいくんです」
仮名文字で流れるようにつながる小説
大西と百田の出会いは、京都大学工学部在学時まで遡る。当時、共通して感銘を受けたと言うのが、1970年代に伊東豊雄が自身の姉の家族のために設計した「中野本町の家」という作品だった。
エントランス以外、外に対する開口部がなく、外部から閉ざされた洞窟やチューブのようともたとえられる内部空間を有する構成は、「o+h」の着想における原点のひとつだと言える。2009年から2014年までの間、伊東の事務所に勤務していた百田はもうひとつ、印象深い作品について話してくれた。
「1984年につくられた『シルバーハット』と呼ばれる伊東さんの自邸です。『中野本町の家』が比較的大きな一棟の塊なのに対して、『シルバーハット』はコンクリートの掘立柱の上に幻のように軽やかな屋根がかかり、その一部には開閉可能なテントが張られていました。
屋内では仮住まいを転々とするように居場所を行き来できて、外にも開かれている。機能や性能を最優先に考えるのではなく、都市の住まいはもっと軽やかであるべきなのではないかという問題提起が『シルバーハット』ではなされていたんです」
内への興味、そこからノマド的な考え方を家に取り込み、外へも流れ出る。そういった伊東の建築に対する思考、感覚が、「イメージから建築を構想するところは、わたしたちが小説に興味をもつということと繋がる、影響された部分なのではないかなと思うんです」と大西は話す。
続けて「日本の小説の原点として『源氏物語』があげられるように、本来小説は仮名文字で書かれたものであることも、気になっているんです」
と付け加えた。
「例えば漢詩だと一語、一節の力がとても強いように思うんです。一つひとつが分け隔てられている、空間が独立しているイメージと言いますか。対して仮名文字は、流れるようにコンテクストが繋がっていく。いろいろなところに居場所を求められそうな感じがするんです」
公共性を帯びた家
「o+h」によるナラティヴの実装例としてまず挙げてくれたのが、2011年竣工の「二重螺旋の家」。引用されたのはマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の第1篇である。
その物語は主人公が寝室でまどろんでいるところから始まる。薄暗闇の空間で、自分がどこの寝室にいるのかがわからなくなる。すると、これまで体験したことがあるさまざまな寝室が伸びたり、縮んだりしながら(脳内で)現れてくる。
「二重螺旋の家」は細い二本の路地の狭間に位置し、さらにはほかの建物に囲まれているため、外から建築を眺めることが難しい。つまり、内部空間のみが存在しているようにも捉えられる。
『失われた時を求めて』も主人公の家の外観は登場せず、内部空間の拡張、連続によって回想が繰り広げられていた。そのことを大西は思い出し、渦巻状の廊下が連なる、「o+h」のウェブサイトの言葉を借りれば「どこまでも行き止まりのない、体験の長い家」が創造された。
大西は、「二重螺旋の家」のメンテナンスに訪れた際の微笑ましいエピソードも教えてくれた。
「『二重螺旋の家』の施主さんはお子さんが三人いらっしゃって、お友達がよく遊びに来るそうなんです。実際、わたしたちがうかがっていたときも、開け放たれている玄関ドアから子どもたちがどんどん入ってきて、勢いよく3階まで駆け上がって行きました。
あと、三番目のまだ幼い息子さんが上手に階段を後ろ向きに降りていたのを見た時も驚きました。階段が多い家なので鍛えられたのか、脚がとても太くなっていて(笑)。家は建った後、そこに住む人や関わる人たちと会話をして、役割が変化する。お互いに影響を与えていることが、10年の時を経てわかったような気がしました」
この話を聞いていると、「二重螺旋の家」が公園やアスレチック施設と化しているようにも思えてくる。外観の意匠より内部の広がりに着目し、そこにナラティヴを援用し、時を重ねたことで家は多義的になり公共性も帯び出す。冒頭の主・客の概念すら薄れてしまう、新しい家・建築の在り方かもしれない。
条件は建築において必須である
ただ言うまでもなく、建築は小説ほど自由ではない。法、重力、構造上の制約、住まい/使い心地、そのほか、求められる諸々の要件。数多くのことをクリアしなければ成り立たない。しかし、そういった物事は創造の足枷になっているわけではなく、「むしろ自由過ぎないからこそ建築は面白い」と百田は話す。
「ぼくたちは条件が邪魔なものとは考えません。ある世界をつくり出すために絶対的に必要なものだと捉えています。建築の面白さは、どう秩序立て、構成し、組み上げていくかを考えるところにあるので、構造力学や技術なども含め、すべてを総動員させて具体的なものに転化させていく。
また、家をつくる際、施主さんからいろいろなご要望をもちろん受けるのですが、それがそのまま実現されるということはあまりありません。リヴィングにせよ、ベッドルームにせよ、はじめはこの位置で、と考えていたものが幾度となく会話をし、施主さんとぼくたちで一緒に考えていくと有機的に変化していくんです」
この百田の話に照らし合わせながら大西が語ってくれたのが、小説家ヴァージニア・ウルフについてである。
ウルフ作品の特徴は「意識の流れ」という手法にある。文章を書く前に組み立てを考えたり、書いている最中に推敲したり客観性を意識することはごく普通のことだろう。しかしウルフは、筋を気にせず、心理の赴くままに書き進めてみることで、これまでになかった画期的な文体を生み出した。大西はその文体の背景を調べた上での魅力をこう話す。
「初めてウルフの作品を読んだ時、あまりに出会ったことがなかった文体だったので衝撃を受けたんです。しかし、どうしてその文体に辿り着いたのかを調べていくと、ただ闇雲に書かれていたわけではなく、追及とそれに伴う苦しみがあったことがわかりました。
彼女は、それまでの文体の歴史が男性によって積み重ねられていたことを自覚的に捉え、『女性にしかできないことは何なのか』をリサーチしたんです。エミリー・ブロンテやジェーン・オースティンといった作品を深く読み、分析していった。
前例、様式、あるいはルールなどを参照し、試行錯誤をしたうえで彼女ならではの文体が生まれたことを知り、新しい文体を編み出すことはクリエイティヴかつ歴史的な行為なんだと痛感したんです」
そんなウルフの『波』という小説からインスパイアされて「o+h」がつくったのが、奈良県にある障害福祉サービス事業所「グッドジョブセンター香芝」。
『波』は6人の登場人物が代わる代わる登場し、その独白で話が進んでいく。幼少期から成人になるまでの各々の意識が織り交ぜられているのだ。そこから着想を得て、これも「o+h」のウェブサイトから言葉を借りれば、「壁や床、屋根、家具といった様々な要素が一気に集まったような建築」、「個人の居場所がありながらも、全体としてみんなの気配を感じることが出来る」ちぐはぐな面で構成された、大きなワンルームが誕生した。
色々な要素の集合と調和。「二重螺旋の家」にも通じるそのコンセプトこそ、「o+h」が建築を手掛ける本意であり命題だと考えられる。
新しい文体的に内部空間を考える
ウルフのように、ある種、即興的に企て、かたちづくってていくには豊富な知識と経験、アイデアを加速化させるための道具が必要である。
ウルフはおそらくペンと紙だっただろうが、建築は図面、模型など道具は多岐に渡る。当然、リアルに立ち現れる存在であるが故に、基本的にはものを使って複雑な創造のステップを踏んでいく。
しかし完全移行はできていないが、大西と百田は段々とタブレットなどのデジタルツールを導入するようになり、スケッチなどは主にそれで行っているそうだ。そのおかげで作業効率は大幅に上がったと百田は言う。
「以前はCGをつくるにしても、いったんプリントアウトをして、気になるところにペンでチェックを入れるといったアナログなプロセスを踏んでいたのですが、いまはデジタル環境内で手書き的にハイライトすることもできるようになっています。デジタルツールの進歩を強く感じています」
また、大西がこれから積極的に取り組もうと考えているのが「展開図」だという。
「これまでは平面図や断面図といった、全体を俯瞰して構成を考えるものを重要視していました。でも、先ほど話をした内部空間から出発するためには、世界がどう展開されて、どこに何があるか、あるべきかを内側から徹底的に考えていくべきだと思うようになって。
展開図は、まずCADでベースをつくり、見えてくるもの──例えばドアノブやエアコンの位置から配線に至るまで──すべてを書き込むためのものです。長い小説のように書き連ねていくと、新しい文体的に内部空間を考えられるかなと。今後は現場でひたすらデジタル上で書いていく作業を深めていこうと思っています」
実は近い、いい建築といいノートPC
CADをはじめとする、建築設計関連のデータを作成するためのソフトウェアは、旧来、WindowsがメインOSである。CADデータをつくる百田は「WindowsのPCにはこれまであまりいい選択肢がなかったので、やむを得ずスペックだけを考慮して購入していた」と話す。そんな彼がいま注目をしているのが、DELLのノートパソコンのなかでも上位機種となる「New XPS 13」だ。
搭載されているCPU、第11世代インテルCoreプロセッサー(開発コード名「Tiger Lake」)はクリエイティヴ系アプリケーションの負荷に強く、強力なグラフィックス性能をもつGPUを内蔵しているため、作業効率面においては間違いなく相応だろう。
百田が“選択肢がない”と言った理由は、高いスペックといいデザインを両立したものがなかったからだが、「New XPS 13」は、その点も適えている。
アルミニウムの削り出しで成型されたボディ。側面でさりげなく煌めく、ダイヤモンドカットと呼ばれるシャープでスタイリッシュな加工。究極的に狭められたベゼルによって美しく、かつ13インチのボディギリギリまで広げることを可能にしたディスプレイエリア……。これら意匠に加え、先日、解像度3.5K(3456×2160ドット)の高精細な有機ELディスプレイ採用モデルが登場したことも「New XPS 13」のトピックスだ。有機ELモデルであれば、細部まで綺麗に表現できる上に視野角が広いため、環境に左右されず詳細を確認・閲覧できる。
コンパクトでシンプルながら徹底されたこだわりの集合によって、「New XPS 13」はこれまでにない個性的なWindows PCとなった。さらにタブレット型になる2-in-1もラインアップされており、アルミニウムだからこそ高強度であるという点も、現場で作業をすることも多い建築家にとってはポイントとなる。
最後に百田は「こうなったらいいと思う建築とノートPCは、実は似ている」と言い、その共通点を語った。
「無論、建築も性能や機能を求められはしますが、それに応えるだけだと寂しいと思うんです。仮に役目を終えたとしても、その建築が存在し続けたり、誰かの記憶のなかに残り続ける方がいい。つまり存在感のある意義をしっかり表明したい。
PCも要件を満たすためのスペックが一番重要。でも、その比較検討をし、上位にきたものがベストとは言い切れないと思います。表現に携わっている身としては、それを越えた、存在価値があるものを選びたい。『New XPS 13』は、小さく薄い体躯なのにも関わらず、力強さを感じました」

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