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宇宙開発企業であるブルーオリジンの創業者ジェフ・ベゾスと、ヴァージン・ギャラクティックを立ち上げたリチャード・ブランソンは、いずれも過去20年にわたってロケットの製造と打ち上げに取り組んできた。そしていま、ふたりともは専用のスーツを着込んで自社の宇宙船に乗り込む準備を進めている。
まず、ベゾスがブルーオリジンの有人宇宙船「ニュー・シェパード」で大気圏と宇宙空間の境界まで7月20日に“旅する”と、6月7日に発表した。これに対してブランソンは、夏にヴァージン・ギャラクティックの有人宇宙船「VSS Unity」に乗り込み、やはり大気圏の上端への旅を予定している。
ベゾスやブランソンのような超富豪による宇宙開発競争は、宇宙に行きたい富裕層を納得させるには十分かもしれない(なお、スペースXのイーロン・マスクは現時点では宇宙への旅の計画は明らかにしていない)。富裕層たちは宇宙船に乗ることが「楽しくて安全である」という保証を求めている、だが、専門家は、長年にわたるさまざまな試験を経ても、宇宙旅行には常にリスクが付きまとうのだと指摘する。
ブルーオリジンの宇宙船は過去にはマネキンしか乗せておらず、有人での打ち上げは初めてだ。これに対してヴァージン・ギャラクティックは、すでに有人飛行を成功させている。
「人間が搭乗するミッションは、無人の場合よりも必ず一段階は複雑になります。これは6人の生命を心配する必要が生じるからです」と、アトランタに拠点を置く宇宙産業コンサルタントのローラ・フォルチクは指摘する。フォルチクは無重力の研究のために米航空宇宙局(NASA)の宇宙船に何度か乗ったことがあるという。「ブルーオリジンの宇宙船について特に何かがうまくいかなくなる懸念があるわけではありませんが、これだけは誰にもわかりません。宇宙産業はリスクの高いビジネスなのです」
PHOTOGRAPH BY BLUE ORIGIN
完全自動制御のニュー・シェパード
ブルーオリジンの宇宙への旅(弾道飛行と呼ばれる)は時間にすると10〜15分程度で、ベゾスと弟のマーク・ベゾス、ほかの4人の同乗者は無重力になる高度まで行くことになる。その後、6人の乗った宇宙船は地球に向かって降下し、3つのパラシュートを使ってテキサス州西部の砂漠に着陸する。
ニュー・シェパードの制御は完全に自動化されている。パイロットはおらず、乗組員は進路を変更したり調整したりはできない。搭乗者ができる唯一の作業はシートベルトの着脱で、席から離れて宇宙船の内部を動き回ると、巨大な窓から眼下に地球を眺められるはずだ。
ベゾス兄弟は飛行に先立ちどのような訓練を受けるのか、人が乗り込むカプセル部分の制御とナヴィゲーションはどう機能するのか。これらの点についてブルーオリジンに問い合わせたが、回答は得られなかった。
代わりに広報担当者からは、ブルーオリジンのウェブサイトへのリンクが送られてきた。そこにはニュー・シェパードには15回の飛行実績があると書かれており、うち3回では緊急時にカプセルをロケットから切り離すシステムの実験に成功したとある。
PHOTOGRAPH BY MICHAEL CRAF/BLUE ORIGIN
ヴァージンは翼のあるスペースプレーン
これに対してヴァージン・ギャラクティックのVSS Unityは、翼のついたスペースプレーンだ。クロムめっきの6人乗りの機体は「ホワイトナイトツー」と名付けられた双胴の専用ジェット機で、高度約50,000フィート(約15,240m)まで運ばれる。
ここでVSS Unityは母機から切り離されてエンジンに点火し、60秒で高度50マイル(80,467m)の宇宙との境まで上昇する。そして搭乗者は、数分間にわたって飛行を楽しむことになる。
最高高度に達すると主翼の半分を上に向かって折り曲げ、抗力が高く空気力学的に安定した形状をつくり出す。こうすることで、バドミントンのシャトルのように機体を浮かせることができる仕組みだ。抗力によって機体のスピードが落ち、翼を折り畳むことで適切な姿勢を保てる。機体が一定の高度まで降下すると翼が元の状態に戻り、姿勢を立て直して通常の飛行機と同じように滑走路に着陸する。
着陸はニューメキシコ州にあるヴァージン・ギャラクティックの離発着場が予定されている。離陸から着陸までの時間は約90分で、機内にトイレはないという。
事故を乗り越えたヴァージン
ただし、ヴァージン・ギャラクティックはこれまでに複数の致命的な事故を起こしている。VSS Unityはヴァージンの宇宙船としては2代目で、初代は「スペースシップツー」と呼ばれていた。
スペースシップツーは、まだ開発初期段階だった2007年にモハーヴェ砂漠の試験場でロケットエンジンの燃焼試験中に事故が発生し、製造を請け負っていたScaled Compositesのエンジニア3人が死亡している。同社は当時、ブランソンから出資を受けていた。
また14年には、スペースシップツーの改良モデルが試験飛行中に空中分解し、副操縦士が死亡する事故が発生した。このときは脱出に成功した操縦士も重傷を負っている。当局は調査の結果、安全装置の設計上の問題点、監督体制の不備、副操縦士が経験不足で心理的に不安を抱えていた可能性を、事故の主要原因として挙げている。
なお、事故の直接の原因は副操縦士が尾翼の位置を戻すタイミングが早すぎたことだった。ヴァージン・ギャラクティックはその後、操縦士の操作によってこうした事態が起こることのないようにシステムに変更を加えると明らかにしている。
こうした死亡事故にもかかわらず、ヴァージンは諦めなかった。VSS Unityは今年5月下旬に最新の有人飛行を成功させたのだ。ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船の最新機であるVSS Unityは、飛行中に何か起きた場合に搭乗者の命を守るキャビン加圧システムを含む安全対策全般が強化されている。
また、ヴァージン・ギャラクティックのコミュニケーション担当副社長アリアナ・クレーンによると、クルーと乗客のための脱出システムも備えているという。またクレーンは、ブランソンとほかの乗客はフライトと必要な手順に慣れるために、宇宙への旅の出発直前にニューメキシコ州の離発着場で3日間の訓練を受けると説明している。
ヴァージン・ギャラクティックは現在、5月22日の有人飛行のデータを分析している。次の飛行には米連邦航空局(FAA)の許可が必要になることから、ブランソンが7月20日のベゾスの宇宙旅行より先に宇宙に行けるかはまだわからない。
ロンドンにいるクレーンは、「さらに3回の有人飛行を計画しており、うち2回は夏に実施されます」と語る。「リチャードはこのどれかに搭乗することになります」。なお、3回のうち最後の有人飛行には、研究目的でイタリア空軍から3人が参加する予定だ。
安全な飛行に求められること
NASAの宇宙飛行士たちによると、短い弾道飛行は国際宇宙ステーション(ISS)への移動とは異なる。
引退したスペースシャトルやスペースXの「クルードラゴン」のようなNASAの宇宙船は、周回軌道に乗せるために複数のロケットエンジンを使う。さらに、複雑な生命維持システムや推進システム、ナヴィゲーション、ロケットに行き先を指示する航空電子工学システムを必要とする。こうしたシステムは自動化されているものもあるが、ISSとのドッキングなどは訓練を受けたパイロットが操作しなければならない。
これに対して、ブルーオリジンとヴァージン・ギャラクティックの商用宇宙飛行船は設計も操縦もより単純なのだと、NASAの現役宇宙飛行士であるダグ・ハーリーは説明する。ハーリーは20年5月に実施されたクルードラゴン初となるISSへの打ち上げで、同僚のボブ・ベンケンと共に乗組員に選ばれた人物だ。
ハーリーは有人宇宙飛行について、「簡単なものなどありません」と語る。「弾道飛行でも軌道に乗せる場合でも、搭乗者が安全に地球に帰ってこられるよう宇宙船には多くのことが求められます。ただ、このビジネスを理解している人なら間違いなく、軌道に到達する飛行と準軌道の飛行との間には大きな違いがあることを知っているはずです」
ヴェテラン飛行士であるハーリーはスペースシャトルのミッションにも参加した経験があるが、機材のテストと乗組員の訓練こそがリスクの軽減につながると語る。民間の宇宙企業はNASAほどの経験はないが、それでも過去10年にわたって自社の宇宙船の徹底した試験に取り組んできた。
ハーリーは、クルードラゴンの打ち上げの前にマスクが乗組員の不安を和らげたいとしてやってきたときのことを覚えている。「彼は『できる限りのことをやりました』と言ったんです。『データを何回も確認して、ほかに注意すべきことはないか、この船で宇宙飛行士を送り出す前にやっておかなければならないことはないかと、インターンまで含めてスタッフ全員に何回も質問しています』とね」
シンプルな構造の利点
クルードラゴンとスペースシャトルの大きな違いは、クルードラゴンは発射台と打ち上げ時に機能する脱出システムを備えている点だ。スペースシャトルでは何か起きたときに搭乗者が助かる可能性はゼロで、1986年に「チャレンジャー」号が打ち上げ直後に爆発した事故や、2003年に「コロンビア」号が大気圏に再突入する際に空中分解した事故では、いずれも乗員全員が死亡している。
ハーリーは「スペースシャトルよりクルードラゴンのほうがはるかに安全です」と言う。「疑問の余地はありません」
スペースシャトルに搭乗したことのある元宇宙飛行士で、クルードラゴンのカプセル部分の設計に携わったギャレット・リーズマンは、ブルーオリジンとヴァージン・ギャラクティックの宇宙船はいずれもシンプルであるがゆえに、安全という意味では優れているかもしれないと指摘する。リーズマンはニュー・シェパードについて、「エンジン点火後は人間がやることはありません」と語る。「飛行中は完全に自動操縦になっています。人間は見ているだけで、ソフトウェアがすべてをやってくれるのです」
さらにリーズマンは、「生命維持システムも単純で、稼働時間も10分程度にすぎません」と指摘する。搭乗時間が長くなるISSへの宇宙飛行とは違い、ブルーオリジンとヴァージン・ギャラクティックの宇宙船には「二酸化炭素除去装置や排水をリサイクルして飲料水に変える機器」などは容易されていない。リーズマンはまた、「トイレはいりません。宇宙服もいらないので、宇宙服と宇宙船をどのように連携させていくか考える必要もありません」と付け加える。
システムが少なければ問題が生じる可能性は減るという点には、宇宙飛行士のハーリーも同意する。一方で、ハーリーもリーズマンも、技術的なシステムを減らして機材の試験と乗組員の訓練を徹底しても、宇宙飛行のリスクを完全になくすことはできないと指摘する。
ハーリーはさらに、宇宙飛行がいまより普及したときに事故が起きる可能性はあると語る。「最初の飛行では細心の注意が払われています。飛行回数が10回、20回と増えても、この警戒を保つようにしなければなりません。すべての打ち上げが重要です。なぜなら、どれにも人が乗っているからです」
※『WIRED』による宇宙の関連記事はこちら。
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