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 バイきんぐのコンビ結成は1996年。NSC入学で結成、ワタナベエンターテイメント、吉本を経て、フリーで3年ほど活動した後、ソニー・ミュージックアーティスツに所属。芸歴17年目を迎えた2012年、『キングオブコント』で優勝を果たし、ようやくブレイクのきっかけを掴んだ。
 長期の“低迷”については、各所で明かされている相方・西村瑞樹のクズ&サイコパス要素が足を引っ張っていたともされている。小峠自身も、「(西村が)営業に遅刻してすっ飛ばした際、『次やったら辞める』と謝ってたがすぐにまたやった」と語っているように、仕事に穴を空けることさえあり、小峠は4回解散を持ちかけている。実際、ネタ作りは小峠担当、西村はロケではボケもツッコミもしないことから、今では小峠にロケ共演NG芸人にさえされているのだ。
 しかし、紆余曲折あった下積み時代が、現在に至る小峠の並々ならぬ順応力に繋がっていることは間違いないだろう。かつてはボケとツッコミが逆だったが、新ネタ6本の書き下ろしライブを4年間継続する中で、客の反応を見ながらボケとツッコミを入れ替えるなどして、徐々に評価が高まっていく。その間、小峠は約150本のネタを作り上げたというが、ボツネタを含めると恐らくさらに数倍になる。あらゆる状況下のお笑いパターンを突き詰めた実績が、高い汎用性と応用力を誇る、現在の“オールマイティ小峠”を完成させた。
 また、今年4月に放送された『1億人の大質問!? 笑ってコラえて!』(日本テレビ系)では、街中で出会ったセルフプロデュースの3人組の地下アイドルをプロデュースすることに。小峠は3人の個性を丁寧に聞き出し、芸人らしく3人の“三段落ち”の自己紹介フレーズをわずか25分で完成させる。“合いの手コール”はアイドルに詳しいカメラマンの意見を聞いたり、缶バッジデザインも自ら描き上げるなど、意外な才能を覗かせた姿に「小峠さんのプロデュース力高過ぎだろ」「詳しくない部分はカメラマンに聞いたりと処理能力が素晴らしい」などネットでも大絶賛。その場にいる人の特性を臨機応変に活かす手腕を持ち合わせているからこそ、プレイヤーだけでなくMC力も光る。
■“強ツッコミ”でも不快感を与えない絶妙な塩梅と、“東に逃げた”からこそ手にした個性
 昨年放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「小物MC芸人」では、小峠のほかにオードリ―・若林正恭、千鳥・ノブ、麒麟・川島明、バカリズムが出演したが、この中でも、ツッコミの“強さ”が際立つ小峠は、番組にインパクトを与え、トークのメリハリを生む。“裏回し芸人”として挙げられる陣内智則やおぎやはぎ、サバンナ・高橋茂雄、ハライチ・澤部佑らを見ても、やはり現在活躍している芸人陣は柔らかい印象ばかり。
 実際、コンプライアンスが厳しくなった今、サンドウィッチマンやぺこぱなどの“傷つけない笑い”が主流となり、毒舌や暴力的ツッコミは敬遠されるようになった。そんな中で、“強いツッコミ”で不快感を与えずに笑いをとるハードルは年々上がっているように思える。
 小峠の「なんて日だ!」は、そんなご時世で誰も傷つけずになぜか笑いが起きる。秘訣は、声の抜けのよさとボリュームだと推測する。言葉自体は特に強いワードではないが、小峠の声量をもってキレが生まれ、これだけ世間に強いインパクトを残しているのだ。コロナ禍のリモート中継などでは、「声が小さい」「聞き取りづらい」というのは致命傷。そういう意味でも、小峠がコロナ禍で躍進したのは必然の流れだったのかもしれない。
 これもやはり、下積み時代に得た賜物のようだ。ブレイク以前、まだまだ“地下芸人”だったバイきんぐが4年間ライブを続けた会場は、元ライブハウスだったため防音設備が充実しており、お客さんの笑い声も芸人の声も吸収されてしまうため、バイきんぐらソニー所属の芸人はおのずと声が大きく育つのだという。
 また、小峠は福岡県出身だが、なぜかツッコミは標準語。関西弁で強さを出すのは比較的容易であり、時に東の人間に対して「強すぎる」印象を与えるが、標準語で“強い”ツッコミをする人は稀有だ。千鳥(岡山弁)やカミナリ(茨城弁)、U字工事(栃木弁)のように、方言を使えば、訛りのインパクトだけで笑いをとることができる。デビュー前、大阪NSCに入学するも、早々に大阪では勝負できないと上京した小峠は、偶然か戦略かは定かではないが、“強い標準語のツッコミ”を手にし、独自性のある“味”を獲得する。
 ツッコミのフレーズ自体も、「しゃべれねぇように声帯くりぬいてやろうか!」「圧倒的なトラウマ植え付けてやろうか!」といった過激なものが多いが、コワモテ芸人が関西弁でドヤしたら視聴者がドン引きするところを、小峠の場合は、(強がっちゃって…笑)的に受け入れられてしまう。
 小峠はブレイク当初から「ドッキリにかけられた芸能人ランキング」2年連続1位になるほどのイジられ役。そこで“可哀相”と視聴者から同情を買えば本末転倒。とはいえ、“キレ芸”に寄り過ぎると視聴者に不快感を与えかねない。小峠はちょうどいい塩梅の声量とイントネーションを駆使し、さらに癒しの“ルックス”も相まって、見事に笑いに昇華できるキャラクター性を持っているのである。
■芸人からも視聴者からも厚い信頼感、にじみ出る“人柄の良さと消費されない“フォルム“
 また、『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)でパンサー・向井慧の悩みに真摯に応えたり、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)のドッキリで仕事中にお酒を飲みはじめるスタッフに注意する姿には、視聴者から称賛の声が相次いだ。“作られた感”たっぷりのリアクションやウソを嫌う視聴者にとって、小峠の姿勢には信頼感を持つのだろう。
 こうした小峠に対する“信頼”は、芸人(タレント)仲間にもあるようだ。4月放送『アメトーーク!』では、みちょぱが“仕事しやすい芸人”として、有吉弘行、吉村崇に次いで小峠を挙げた。その理由については、「何を言ってもツッコんでくれる、フォルムがイジりやすいのでズバズバ言える」と回答。「あのつるつる加減がね、ちょうどいい」らしい。
 また、さまぁ~ず・三村マサカズもラジオで、「一番面白いヤツ」として小峠を挙げ、「小峠をテレビで観てると、何もしてないけど、すげぇ全部面白いんだよね」と発言。ツッコミの能力だけでなく、“見た目そのもの”にも面白いオーラが漂っていると語り、伊集院光も同意。
 昨年放送の『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)では、小峠は“リモート芸人”として存在感を放つ理由を聞かれ、「リモートはハゲが映えるらしいんですね。画力的な。ハゲは眼がいっちゃうらしい」と自認。『週刊SPA!』でも「リモートワークが得意そうな男1位」に選ばれると、「いや…たぶん、僕のこのビジュアルじゃないですか? 仲のいいディレクターからはよく『四角のなかに丸があるのが面白い』って言われたんですよ。たとえるなら日の丸みたいなものでしょう、これは(笑)。テレビを見てる人もきっと落ち着くんだと思います」と語っている。
 何となく小峠を見ると落ち着くのは、日本人としてのDNAがなせる業だったのだろうか。ツルツル頭というのは、火野正平や笑福亭鶴瓶らに並び、日本の“芸能遺産”なのかもしれない。これからも標準語かつ大声量の胸のすくツッコミ、隠しきれない人柄のよさ、そして日本人のDNAを刺激する(!?)坊主頭で、コロナ禍で暗くなりがちの日本人の心を明るく照らし続けてほしいものである。
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