2021年07月09日
19世紀は、風景画にとって激動の時代。
歴史の証人とも言える絵画が、フランスから日本にやってきました。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー《突風》1865-70年
Inv. 899.16.23 ランス美術館
© MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwer
SOMPO美術館で『ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ』が始まりました。
フランスのシャンパーニュ地方にあるランス美術館の所蔵品を中心に、19世紀の風景画など油彩や版画約80点が来日しています。
展示風景
19世紀といえば、フランスの風景画が大きく変化した時代です。
どう変わったのかというと……。
まず、絵画にはきちんとしたヒエラルキーがあり、トップにあったのが宗教画や歴史画。
風景は宗教画や歴史画の背景としては描かれたものの、風景単体の絵は高くは評価されませんでした。
神話や歴史のワンシーンを飾るため、その場にふさわしいように理想化された風景を用意する、といった扱いです。
展示風景
この傾向が変わったのが19世紀。
近代化によって田舎のノスタルジックな風景の人気が高まったり、チューブ入り絵具が開発されて戸外でも絵を描けるようになったりしたことを背景に、現実の風景を主役にした絵画が登場します。
その代表格が、バルビゾン派。
パリ南東にあるフォンテーヌブローの森に位置するバルビゾン村に、カミーユ・コロー、テオドール・ルソー、シャルル=フランソワ・ドービニーなどの画家が集いました。
テオドール・ルソー《沼》1842‒43年
Inv. 907.19.227 ランス美術館
© MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwer
彼らの作品を見ると、画面のほとんどを風景が占め、人間は小さく描かれているのみです。
しかも、神話や歴史に登場する人物ではなく、田舎に暮らす一般人。
伝統的なヒエラルキーに照らせば、まったく評価されないような絵画です。
そこがバルビゾン派の絵画の重要な鑑賞ポイントだと思います。
(注文に応える使命があったとはいえ、)画家たちは「ここの風景いい!描きたい!」と思ったから、風景を描いたのですよね。
彼らの絵を見るときは、現実の風景のどこに美を見出したのかな?と考えながら見ると面白いのではないでしょうか。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
《湖畔の木々の下のふたりの姉妹》1865-70年
Inv.887.3.82 ランス美術館
© MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwer
例えばコローは、物語が豊かな絵を描くなあ、と思いました。
縦長の画面に背の高い木々が描かれ、小さな人々が逆光に浮かび上がっています。
人物を引きで見せる構図にこそ、奥ゆかしい魅力があっていいな~!と思うんですよね。
話が逸れますが、例えば近所で盆踊り大会が開かれている状況をイメージしてみてください。
盆踊りに加わる人もいると思いますが、私は見ているだけで輪には入らないほうが好きなんです。
何なら、自宅にいるときに遠くから盆踊りの音楽がかすかに聞こえてくる、くらいの状況が一番風流だと感じます。
コローの絵には、同じように奥ゆかしい美意識を感じられました。
ピエール゠オーギュスト・ルノワール《風景》1890年頃
Inv. 949.1.61 ランス美術館
© MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwer
バルビゾン派のように、本当の自然を描く画家が登場したことは、印象派の台頭にもつながります。
印象派はありのままの自然の中でも光に注目し、明るい色彩を表現するため、絵具を混ぜずにキャンバスに置きました。
バルビゾン派の風景画と比べると、印象派の風景画の鮮やかさは一目瞭然だと思います。
クロード・モネ《べリールの岩礁》1886年
Inv. 907.19.191 ランス美術館
© MBA Reims 2019/Photo : C.Devleeschauwer
西洋絵画における風景には、
神話や歴史の背景なので理想化して描く
↓
ありのままの田舎の自然を描く
↓
光の効果を追求して明るく表現する
こうした変化があったことを押さえておくと、展覧会の勘所がわかりやすくなるかな~、と思います。
ほぼ年代順の展示構成になっているので、ここまでで解説した流れを目で見て理解できるはず。
展示風景
日本国内だと、モネやルノワールなど印象派の知名度が高すぎて、他の画家はピンと来ない……という人が多いのは仕方ありません。
しかし、誉れ高い印象派が登場するまでには、バルビゾン派など先達の画家たちの布石があったんですね。
実際、彼らの風景画も見所が多いですよ。
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※取材許可を得て撮影しました。
展覧会基本情報展覧会名:ランス美術館コレクション 風景画のはじまり コローから印象派へ
会場:SOMPO美術館
会期:2021.6.25(金)~9.12(日)※日時指定優先制
休館日:月曜日 ※8月9日は開館
開館時間:10:00 - 18:00
公式HP:https://www.sompo-museum.org/
関連情報コローをはじめバルビゾン派の絵画も、単眼鏡を使うと別世界が見られます。
単眼鏡を使うと数センチまで近づいた感じで見られるので、実景を双眼鏡で見ているような感覚に。
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