生体電気による

生体電気による「細胞間のインターネット」で失われた手足の再生に挑む(後篇)


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2021.07.21 WED 07:00:47
生体電気による「細胞間のインターネット」で失われた手足の再生に挑む(後篇)
いつの日か人間の手足が再生できるようになることは、発生生物学者の誰もが疑っていない。問題は、それがいつ実現するのか、そして再生が実際はどのように機能するかだ。発生生物学者のマイケル・レヴィンは細胞同士のコミュニケーションを司る生体電気こそが「形態形成のコード」だと考えている。果たして生体電気をハックすれば、生物の体を自在にプログラム可能になるのだろうか? 生物学とコンピューターサイエンスが融合した最新研究の後篇をお届けする。
TEXT BY MATTHEW HUTSON
シカが角を生やし、人間が肝臓を再生するように、生物は単に傷を治すだけでなく、体の一部を再生することができる。それはわたしたちの体を構成する細胞が、生体電気を使ってコミュニケーションをとり、自分たちが何になるかを細胞間で決定しているからだとタフツ大学の発生生物学者のマイケル・レヴィンは考えている。では生体電気のコードを解読し、コントロールすることは可能なのだろうか?
マシュー・ハトソン
わたしが話を聞いた発生生物学者の誰もが、いつの日か人間の手足が再生できるようになることを疑っていなかった。彼/彼女らの意見が分かれたのは、その実現にどれくらいの時間がかかるか、そして再生がどのように機能するかという点だけだった。
他のプロジェクトでは、実験室で体の器官を成長させて移植する方法、組織細胞を使って体の器官をまるごと3Dプリントする方法、遺伝子のスイッチ(「マスターレギュレーター」)をオンにしたりオフにしたりする方法、切断された手足の残った部分に幹細胞を注入する方法などが研究されている。最終的には、こうした技術の組み合わせで答えが見つかるかもしれない。
生体電気の調整で脳の機能を回復
発生生物学者のマイケル・レヴィンは、手足の再生に限らず、他にもさまざまな形態発生や組織形成に興味をもっており、それらをコンピューターでモデル化することも研究対象にしている。タフツ大学の彼の研究室の廊下を進むと、腰の高さまである精巧な機械が光を放っている部屋があった。その装置には照明とカメラがずらりと並んでいて、その上に12枚のシャーレが吊り下げられ、高性能のコンピューター群と接続されていた。オタマジャクシやプラナリアの知能指数(IQ)を測定するためのシステムです、とレヴィンは説明した。
2018年に論文発表した研究で、レヴィンのチームはカエルの胚をニコチンに浸した。彼らの予想通り、ニコチン処理されたカエルは前脳の欠損を含むさまざまな神経の奇形を示した。そこで研究者たちは、アレン・ディスカヴァリー・センターの研究メンバーであるアレクシス・ピエタクが構築した「BETSE(BioElectric Tissue Simulation Engine:生体電気による組織シミュレーション・エンジン)」というソフトウェアを使用した。ソフト上の仮想世界で研究者たちはさまざまな薬を投与し、それが生体電気信号と脳の発達に与える影響を観察して、ニコチンによるダメージから回復させる治療法を見つけようとしたのだ。
BETSEは「ある特定のタイプのイオンチャネルを利用すれば、まさにそのような効果が得られると予測したのです」とレヴィンは言う。研究チームがニコチンでダメージを受けた実際の胚にそのための薬を投与してみると、そうした胚の脳は本来のあるべきかたちを取り戻したことを確認できた。研究チームは、このソフトウェアによって「脳の形態を完全に回復させることができた」と記している。
照明とカメラが並んでいる「IQ測定システム」は、細胞の機能回復度を測るもうひとつの方法だ。この装置の中ではカラーLEDがシャーレを下から照らし、それぞれを赤と青のゾーンに分けている。成長したオタマジャクシは、赤いゾーンに入った途端にショックを感じる。レヴィンの観察では、正常なオタマジャクシは例外なく赤いゾーンを避けることを覚えたのに対し、ニコチンの影響を受けたオタマジャクシでそうすることを覚えたのはわずか12%だった。だが、生体電気を再調整する薬剤を投与されると、その割合は85%に高まった。オタマジャクシのIQが回復したのだ。
形態形成システムをハックする
生体電気が形態形成に果たす役割については、研究者の間でも意見が分かれている。カリフォルニア大学デーヴィス校で発達と再生について研究している生物学者のローラ・ボロディンスキーは、「遺伝子のプログラムと生体電気信号がどのように混ざり合っているのか」など、このプロセスがどのように機能するのかについては「まだ解明されていないことがたくさんあります」と言う。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の生化学者であるトム・コーンバーグは、生体電気に似た別の細胞間システムを研究している。それは、細胞が互いにコミュニケーションをとるために放出する特殊なタンパク質「モルフォゲン」に関するものだ。コーンバーグの研究室では、モルフォゲンがどのように細胞間を移動し、細胞に指示を出しているのか調べている。コーンバーグは、このタンパク質が関係する形態形成について「どんな語彙や言語が使われているのか知りたいのです」と研究動機を語る。おそらくいくつも見つかるだろう。
ハーヴァード・メディカル・スクールの遺伝学科長で、かつてレヴィンの博士論文を指導したタビンは、生体電気の性質について彼自身は「懐疑的」だとわたしに語った。レヴィンは生体電気を「コード」と表現している。しかし、タビンは「形態形成を開始するためのトリガーであることと、コードのかたちで情報を保存することとは違います」と言う。
彼は喩え話をした。「掃除機を動かすには電気が必要です。だからといって、掃除するための指示を出すコードが電気に存在しているとは必ずしも言えないのです」。コンセントに流れている電流は、掃除機に指示を出しているわけではない。掃除機に動力を供給しているだけなのだ。
レヴィンは、生体電気はもっと複雑なものだと考えている。適切な生体電気信号は、まるで「ダストバスター」ブランドの掃除機を「ダイソン」に変身させるかのように、尾を頭に変えることができる。この信号を変化させると、遺伝子やイオンチャネル、細胞を調整しなくても、頭が尖ったり、筒状になったり、帽子状になったりと、非常に具体的な結果が得られるのだ。「形態形成システムはハッキングして変化させることができます。現時点で、こうしたことができる競合技術は他にありません」とレヴィンは語る。
人間はどこまで「ロボット」なのか
レヴィンの研究には哲学的な側面もある。彼は最近、アレックス・ガーランド監督のSF映画『エクス・マキナ』を観た。この映画では、若いプログラマーが、天才技術者の社長がつくったロボット「エヴァ」と出会う。エヴァのあまりのリアルさに、主人公は自分にも配線があるか確かめるため自らの腕を切り裂く。
レヴィンも子どものころから、人間は何でできているのだろう、と考えていた。父親になった彼は、ティーンエイジャーになった息子たちとそのような疑問について話すのが好きだ。レヴィンは長男が6歳か7歳のころ、「自分がほんの数秒前につくられて記憶を植え付けられたつくりものの人間じゃないって、どうすれば確かめられると思う?」と尋ねたことがある。「それが子どもにどんな影響を与えるか、よく考えていなかったんです。息子はそれから1週間ほど動揺していました」と、レヴィンはちょっときまり悪そうに笑った。
わたしたちは直感的に、人間が機械や機械の群れになるのはよくないと考えるが、レヴィンの研究はまさにそれが現実だと示唆している。彼の世界では、人間はどこまでもロボットなのだ。生体電気信号を使えば胃から目をつくり出せる可能性があるが、目を形成する指令は細胞のゲノムにも生体電気信号にも含まれていない。細胞は、集団としても独立した存在としても、身体の組織を形成するプロセスにおいてある程度の独立性を有している。
タフツ大学でレヴィンの同僚である哲学者のダニエル・デネットは、身体から独立して自己決定的にふるまう「心」と、獣のような「肉体」と

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