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ポスト・プリント世代が見つけた隔離時代のZINEカルチャー:「QUARANZINE」の誕生


“アマチュア”たちの手で次々に生み出されている小冊子「ZINE」は、ニュースレターの「Substack」に対してクールな代替メディアがありうることを示している。
COLLAGE BY SIMON ABRANOWICZ
2021.06.25 FRI 07:00:05
ポスト・プリント世代が見つけた隔離時代のZINEカルチャー:「QUARANZINE」の誕生
パンデミックによる隔離期間(quarantine)に花開いた「ZINE」の新たな潮流は、昨今のニュースレター・ブームをクールに代替し、より少数の洗練された読者に向けて、ニッチで親密な、まるで街中にいるような混沌と猥雑と錯乱を紙面上につくり出している。ポスト・プリント世代が見つけた、その手で創造することの新しい価値。
TEXT BY RACHEL TASHJIAN
TRANSLATION BY NOBUYOSHI EDO/LIBER
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ゲスト:山崎亮(コミュニティデザイナー)
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もう10万年くらい前のことに思えるけれど、2020年5月ごろから、わたしは Instagramで何枚かの写真に目を留めるようになった。それらはどれも、同じ美しい本とおぼしきものを写したもので、著者はモリー・ヤングとあった。表紙を飾っているのは、ジャン・オノレ・フラゴナールの《恋文》。へんてこなリボン帽をかぶったあどけない少女が、花束を片手に、少し身をかがめながらこちらを向いて微笑を浮かべている、有名な絵だ。タイトルは、バターイエローで『The Things They Fancied(夢想されたものたち)』と書かれていた。
いま「本」と言ったけれど、実はこれは本ではなかった。それよりずっと洒落たもの──ZINE(ジン=自主制作による少部数の冊子)だったのだ。『The Things They Fancied』は、パイナップルから齧歯(げっし)類のペット、アンダーヘアのお手入れまで、歴史上、有産階級の人たちの偏愛の対象となってきた、数々のへんなモノ・コトについて、調べて綴ったエッセイを編んだものである。
パンデミックによって「階級」の存在が痛々しいほど露わになった時期には、ちょっとした慰めになるものだし、読んでみると、実際いい気晴らしにもなれば(すごく面白い!)、この時代の記念品になる(叙述も美しい)ようにも感じた。「コピーされたもの」という含意のあるZINEと呼ぶのは、似つかわしくない気がしてくるほどの出来ばえだった。
過去1年ほどの間に続々と誕生
そのうち、わたしはこうした「本ではない印刷物」をほかにも覗いてみるようになっていた。例えば『High Fashion Talk(HFT)』。これは、ランウェイコレクションやファッションニュースについて熱く語り合う、世界に43,000人以上のメンバーがいるFacebookのプライベートグループの手になるZINEだ。
あるいは、ファッションスタイリスト、カミラ・ニッカーソンの元アシスタントらが集めた写真やスケッチを収録した、艶やかな綴じ本。スタイリストのジュリー・ラゴリアが手がけた『____ IS FUN』は、『ビジネス・オブ・ファッション』誌で紹介されているように、購入はできず、すでにそれを持っている人からの贈り物としてしか入手できない、「経験ベースのメディア」だ。
もちろん、アートと雑誌をかけ合わせた印刷作品には長い歴史がある。ファッションデザイナー、アンドレ・ウォーカーの雑誌作品《TIWIMUTA》[編註:タイトルは”This Is What It Made Us Think About(これがわたしたちの考えさせられたこと)”より]は、高級百貨店のノードストロームで購入できる。グラッドストーンギャラリーのディレクター、アリッサ・ベネットが制作したZINEはファッション界の記念品のような扱いを受けていて、こちらは書店のプリンティッド・マターで販売されている。1960年代にニューヨークで刊行されたマルチメディアマガジン『アスペン』は、アンディ・ウォーホル、ロバート・ラウシェンバーグ、ジョン・ケージらが制作にかかわった。
けれど、『The Things They Fancied』のような「QUARANZINE(クウォランジン=“隔離誌”)」は、また別のものである。過去1年ほどの間に、続々と誕生したこのZINEは、いつにもまして心もとない、ジャーナリズムの現状に対する反応と感じられる点が多い。それは、ニュースレターの「Substack」をもっとクールに、あるいはもっと手仕事(アルチザン)的にしたものとも言えるだろう。
さっき触れたHFTも、ファッションメディアという“島宇宙”の外側で活動するQUARANZINEのひとつだ。「ぼく自身、ちゃんとした雑誌でインターンしたことはなくて、キャリアを積んできたというわけでもありません」とHFTグループの創設者で同誌を率いるヨロ・ルイスは話す。「というか、たぶんぼくみたいな人間は、ちゃんとした雑誌で職を得るのは難しいんですよ」。
とはいうものの、彼がHFTの「カヴァースター」に、リック・オウエンスのパートナー、ミシェル・ラミーを起用してセンセーションを巻き起こしたとき、ファッション誌業界内部の人たちから妬まれたことは想像にかたくない。
あまりの退屈さと、ほとばしる創造力の賜物
こうしたQUARANZINEは、矛盾した言い方になるけれど、あまりの退屈さと、創造力のほとばしりの賜物のように思われる。そして、どれも、少数の洗練された読者に向けて発信されている。
なかでも最も大きな注目を集めたのは、2020昨年10月に創刊された『Drunken Canal(ドランクン・カナル)』かもしれない。23歳のクレア・バンスと24歳のグーテス・グーターマンが手がける紙版限定の新聞で、名前はロウアーイーストサイドのカナルストリートにちなむ(創刊号には、地元のたまり場「クランデスティーノ」のチーズプレートのレヴューも載った)。この通りとディヴィジョンストリートが交わる非常に狭い地区、ダイムズスクウェアは、ニューヨークの“反トレンド”派の最先端を行く場所として知られる。
『Drunken Canal』のコンテンツは、タブロイド紙さながら、ゴシップに飢えた人々の欲望を満たすものになっている。“キャンセル”された人やもの(アレキサンダー・ワン、ダイエット・プラダ、etc.)リスト、媚薬効果のある身近な食べ物ガイド、作家のキングズリー・アミスを誇らしい気分にさせるようなマティーニ入門、架空ドラマ「ダイムズスクウェアの主婦の実像」のキャスティング(ポッドキャスト「Red Scare」のホスト、アナ・カチヤンは知的なダーツ投げの役をあてがわれている──“波乱が起きる心の準備はできている”」。
『Us Weekly』誌ふうのパパラッチの折り込みページもあって、これはイタリア版『ヴォーグ』2005年1月号に掲載されて評判を呼んだ、写真家のスティーヴン・マイゼルによる特集「ハリウッド」を彷彿させる。つまり、『Drunken Canal』には、ミレニアル世代の人たちがいつも話題にはしているものの、実際は面倒くさくてやらないものが満載されているのだ。発刊されるや、たちまち受け入れられたのも当然と言えば当然だ。
21年3月に発行された第5号では、グーターマンが少し前にアートギャラリーの仕事を辞め、バンスと共にフルタイムで『Drunken Canal』に取り組めるようになった。といっても、ふたりはこの新聞をあまりに「プロフェッショナル」なものにしないよう気をつけているといい、もし誰かから買収したいという申し出があっても、どうするかわからないという。
「わたしたちにできるのは次の号のことを考えることだけ」とバンスは語る。グーターマンも「正直、わたしたちがこれをやっているのは、ただ楽しいから。楽しんで、いい時間を過ごしたいんだ」と話す。
「これは本物の新聞じゃないんです」
ニューヨークのサブカルチャーを記録する新聞は『Drunken Canal』だけではない。21年2月には、『Paper』誌の創刊者で元編集者のキム・ハストライターによって『New Now(ニュー・ナウ)』が発刊された。ブロードシート(大判)のこの新聞には、ハストライターの拡がり続ける人脈の諸氏から寄せられたエッセイやイラストなど、種々雑多な記事が掲載されている。
ルーベン・トレドは個人用防護具(PPE)についての風刺画を描き、グラフィティアーティストのジム・ジョーはニューヨーク市のネズミと自由の女神の想像上の会話を絵にしている。マイケル・スタイプは時間について語り(「彼ったら、なかなかの詩人なんですよ」とハストライターは電話インタヴューで評していた)、オーロラ・ジェイムズは

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